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2006.02.27

》流行とパラダイムシフト

もう10年程も前のことになるのでしょうか。

私は特別、音楽が好きという訳でもなく洋楽マニアという訳でもないので
TVなどで流れている音楽、歌謡曲などを普通に聞いている程度でした。

でも、流行っている曲はみな揃いも揃って

  よ〜し盛り上がって来たな、 ここがヤマだ。  というところに来ると

  ガクッと見事なまでの期待外れに音程は下がり

低い声で同じようなリズムのままに過ぎていってしまうのでした。


音楽の技術的なことも解りませんし、
深くも考えないでいました。

そうしたところへ当時、新興音楽会社のエイベックス所属のTRFが
日本語の歌詞のダンスミュージックという今までにないジャンルの曲で

  大ヒットを飛ばし始めました。

それまでにヒット曲を生む手法の主流であった
ドラマやCFとのタイアップをせず
(正確には「できず」=当時まだ無名に近いエイベックスは相手にしてもらえなかったようです)
それまでは誰も行わなかった、
曲そのもののスポットCFを料金の安い深夜枠に大量に打つ戦略も功を奏したようです。

その後、ご存知のように
数年間に渡りプロデューサー、作曲作詞家である小室哲哉氏の生み出す楽曲は
メガヒットを飛ばし続けることになります。


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


TRFが現れる前、

既に 荻野目洋子さんが ダンスミュージック の先駆けとしてヒットしていましたし、
洋楽としての ユーロビート は クラブ や 「 走り屋」
(=チューンナップした車で峠や市街地などを走行する人々)
といった一部の範囲の人達の間では流行していましたから

小室氏の曲がヒットする土壌は既に出来上がっていたといえます。


そうした 顕在的 なこととは別に私が言いたいことは

多くの人がこの頃、私と同じように 既存の楽曲に不満 を感じていて
曲のヤマ場といった箇所で ‘高音’ を求めていた、
(音楽に全くの素人である私個人の主観的な意見、表現です。)
と思うのです。

このようなことは 誰も声に出しては言わなかったと思いますし
大部分の人は先ず、音楽の技術的なことからして分かりませんから
具体的に伝えようもありません。

また、 プロの音楽業界の方達の間では小室氏の嗜好した
(小室氏の著書では「隙間を狙った」と語っています)ようなジャンルの音楽は

   日本では流行らない、  メジャーにはなり得ない

というのが当時の定説だったようです。

小室氏は後年、その著書の中でこんなようなことを語っています。

  『当時の若い人たちの間に何となく暗い雰囲気、
   パッと盛り上がりたいという空気を感じ〜
   「寒い夜だから…」のフレーズとメロディがいっぺんに浮かんだのです。』

恐らくこれが、多くの私のような全くの音楽の 素人(=大衆) が心の底で感じていた

   〜“既存の楽曲のヤマ場に不満を感じ”“高音を求め”〜

といったようなことと同じで、見事に シンクロ(同調) したのだと思います。


このような、業界の‘常識’に捕われずに己の 直感に従った勇気 と
上記のエイベックスの広告戦略やカラオケ・ブーム、小室氏の地道な努力
が相俟っての成功だったのだと思います。

       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


しかし、
『多くの人がこの頃、私と同じように既存の楽曲に不満を感じていて
曲のヤマ場といった箇所で‘高音’を求めていた。』と書きましたが、

     このことを口にしたことはないのに

結果的に当時何十万、何百万人もの人たちが似たような考えを持っていた
ことを思うと 驚きに値します。


以前、このBLOGの中でサルが芋などを海水や温泉で洗う行為が
日本中の離れた地域で 同時多発的に確認された事実について記しました。
【リンク: ニライカナイ逢いたいチカラ: 『逢いたいチカラ』とNTT人体通信.】

ある人に教えていただいたのですが、それを パラダイムシフト というそうです。

調べてみると
『ある分野、地域などで考え方や概念が
それまで常識とされていた事などが覆される程に大きく変化すること』
とあります。
(但し、パラダイム概念を生み出した科学史家トーマス・クーン
 の解釈は少し違うもののようです。)


この小室氏とエイベックスの成功は
日本の大衆音楽におけるパラダイムシフトの一例といえるのではないでしょうか。

ここでは省略させていただきますが
小室氏の当時の出来事を記した著書やエイベックスの起業物語などを読みますと

   ユングの提唱した 布置、シンクロニシティ を

正に実証しているかのようにもみえます。

パラダイムシフトと布置、シンクロニシティなどとの関係や
より具体的な姿についてはまた追々書き記してゆこうと思っています。


エイベックスを起業し支えた方達、小室氏、アーティスト、リスナーとしての大衆
などがそれぞれの立場から一歩ずつその役割を果たしつつある中で

ある時から 不思議な織り成し を見せ、ひとつの現象、結果、文化を生み出したのです。


※小室哲哉氏と中谷彰宏氏の共著『プロデューサーは次を作る—ビジネス成功22の方程式』
の中で私の興味を引いたのが
第4章 シンクロ—不特定多数と同じ気持ちになる
という部分で、小説の題名「リング」「ループ」などと自分の作品との
偶然の一致などについて書かれています。


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